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× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 最近、「医療観光」という言葉をよく聞きます。アジアの富裕層向けに質の高い日本の医療を提供して、外貨を稼げる産業として売り込んでいこうという話です。確かに可能性のある分野だと思うし、日本の医療は十分に競争力もあるでしょう。 【拡大画像や他の調査資料を含む記事】 しかし、つい最近まで「医療崩壊」や「救急患者の受け入れ拒否問題」がマスコミで騒がれていたことを考えると、日本人患者さえまかないきれない体制で、海外の顧客向けビジネス(?)という話が出てくるのは不思議な気もします。 そもそも、この業界の問題は本当に分かりにくいです。医療崩壊の原因の1つとして、「医者不足」が言われるのですが、それが根本的な原因なら解決方法は明確です。「大学の医学部定員を増やす」以外に解はありません。ところが、「医者を増やすと、医療費が増える」と怖れる厚生労働省が消極的なことに加え、日本医師会でさえ医者増には消極的に見えます。ようやく2008年から定員増が始まりましたが、ご存じのように彼らが医者として働き始めるのは最短でもその6年後からです。 2つ目としてよく聞くのは、「医者の絶対数は不足していないが、偏在が問題である」という意見です。ところが、これもはっきりしない話です。例えば、「過疎地の医者不足」という話はよく聞きますが、よく報じられる救急患者の受け入れ拒否問題の多くは、東京や大阪など大都市の事例です。偏在とは「ある所では余っているのに、別の場所では足りない」という意味ですよね。過疎地でも東京でも医者が足りないとすると、いったいどこで医者は余っているのでしょうか? 診療科別に見ると、医者不足がよく喧伝されるのは産婦人科や小児科ですが、一方どこかの診療科で医者が余っているという話を聞いたことがあるでしょうか? 外科も内科も麻酔科も、医者が余っているとは聞きません。 感覚的に「競争が激しそう=供給側が多そう」と感じるのは、コンタクトレンズ店併設の眼科と、美容整形外科ぐらいですが、偏在が本当なら、解決には「分野ごとの適正人数と現状の人数、その格差」が記された一覧表が必要なはずです。しかし、そういう基礎的な情報さえなかなか手に入りません。 ●社会や生活スタイルの急激な変化 また単純な“不足”や“偏在”の問題だけではなく、社会や生活スタイルの急激な変化がこの問題の背景にあるようにも思えます。 まず、需要サイド(患者側)において、夜の活動の増加が考えられます。昔に比べ、今は夜でもクルマの交通量は多く、働いている人も遊んでいる人も増えています。夜の救急患者数は相当伸びているでしょう。 また、核家族が増え、子どもの数が減ると、ちょっとした異変でもお母さんは赤ちゃんを病院に連れていく以外ありません。医者に会うまで、「医者に行く必要があったかどうか」判定できないからです。 昔は多くの女性が20代前半で第1子を生んでいたのに、今や30代前半の初産は普通になっています。助産師さんや単科の産婦人科ではなく、脳外科などを併設した大病院でないと対応できないお産も増えているでしょう。このように、医療ニーズ自体が大きく変化していると思われます。 一方、供給サイド(医者側)にも多くの変化がありました。昔は医局の教授が若手の医者を“適切に”配属することによって、それなりに大変な職場にも医者が配置されていたかもしれませんが、今や医者向けの転職サイトまで存在する時代です。 個々人の医者も、自分なりのキャリア形成やワークライフバランス、住みたい地域などを検討しながら働く場所を選ぶようになるでしょう。そうなれば当然、人気のある場所と人気のない場所が生じます。 また、ある医者が「女性が医学部に増えたのが医者不足の原因」と発言されていましたが、確かに家事や育児を担当することの多い女性は、男性の医者ほどの労働時間はとても働けないでしょう。特に、一部の勤務医の労働時間は尋常ではないと言われており、ほかの産業同様に滅私奉公的な働き方を要求する職場は、女性でなくても敬遠しがちになるのは当然です。また、夜の患者が増えても、真夜中に働きたい医者が同じペースで増えるわけでもありません。 このように、需要サイドから見ても供給サイドから見ても、ここ数十年で大きな変化が起こっているのに、制度設計自体がそれに付いていけていないのではないかと思われます。 ●問題が見えにくい医療業界 また、「勤務医VS. 開業医」という構図についても、「ポルシェを3台持っている」というようなお金持ちの開業医の話を聞くと同時に、設備投資費用を回収するレベルの収入が維持できず、経済的に行き詰まる病院も多いと聞きます。 いったい医者は足りているのかいないのか、偏在しているのかいないのか、報酬が十分なのかそうでないのか、日本の医療は崩壊しつつあるのか、海外の富裕層に売れるほど高品質なのか。この業界全体で何が起こっていて、どんな問題を解決しないと状況が改善されないのか、本当に見えにくいです。 医療は誰もが関心のあるテーマだし、日本は先進国の中でもすばらしい医療制度をもっている国です。しかし、制度疲労を起こしているのは確かなので、もう少し問題が整理されて、一般の人にも広く正しい問題意識が共有されると良いのにと思います。 日本企業の国際化や競争力の話であれば、ネット上でも多くの人が参加して議論を交わしています。医療制度問題の不幸の1つは、おそらく医療関係者のコミュニティ内だけで議論が行われ、広く現状認識と議論が広がらないこと。議論になるのは何か大きな問題が起こった時だけで、その時にはマスメディアの単純化された極端な報道だけになってしまっていることではないでしょうか。 日本の医療が海外の富裕層に絶賛される一方、過重労働に苦しむ医者や、受け入れを拒否されてさまよう患者の問題が放置され続けるのは悲しいことです。私たち日本人がまず自信を持って世界の人に誇れる医療体制であり、かつ、海外からも高い評価を受けられる産業であってほしいものです。 ※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年3月11日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。 【関連記事】 「医学部生は医者以外になるな!」と言わないで――18歳で人生決めますか? 日本商品がやたらとオーバースペックである理由 精神的に大人であるための3つの条件 「ちきりんの“社会派”で行こう!」連載バックナンバー 引用元:ロハン(新生R.O.H.A.N) 専門サイト PR |
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